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高松高等裁判所 昭和30年(ネ)161号 判決

控訴人 株式会社愛媛相互銀行

被控訴人 篠原産業株式会社

主文

原判決を左の如く変更する。

被控訴人は、控訴人に対し金十万五千円及びこれに対する昭和三十年十月二十一日以降完済に至るまで年六分の割合の金員を支払うべし。

控訴人その余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

控訴人において金三万五千円の担保を供するときは第二、四項に限り仮りに執行することができる。

事実

控訴代理人は、原判決を取消す、被控訴人は控訴人に対し金十万五千円及びこれに対する昭和二十八年十二月二十二日以降完済に至るまで年六分の割合の金員を支払うべし、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする旨の判決並担保を条件とする仮執行の宣言を求め、被控訴人(会社代表者)は控訴を棄却する旨の判決を求めた。

当事者双方の主張する事実は、左のとおり補述した外孰れも原判決摘示の事実と同じであるから茲に引用する。

控訴人において「仮りに訴外篠原朝之進が作成したものとするも同訴外人は、被控訴会社の代表取締役であるが共同代表の定めはない。しかも代表取締役篠原近一の長男であるので常に上叙代表者名義を用いそれに被控訴会社社印、社長印を押す等の方法により被控訴会社業務の執行をしていた者であるから同訴外人が斯様な権限に基づき代表者篠原近一名義を用い振出した本件手形につき被控訴会社に責任がある。控訴人は昭和三十年十月二十日補充権に基き本件手形に振出日を昭和二十八年十月十日と補充した」と述べ。被控訴人において「訴外篠原朝之進が被控訴会社の代表取締役であり他の代表取締役篠原近一の長男であることは認める。」と述べた。

〈立証省略〉

理由

原審証人篠原朝之進及び当審証人河井政晴の各証言並びに事実上甲第一号証が存することの事実を綜合すると、訴外篠原朝之進が昭和二十八年九、十月頃訴外河井政晴に対し振出人篠原産業株式会社取締役社長篠原近一とする額面金十万五千円、満期昭和二十八年十二月二十一日、支払地愛媛県字摩郡三島町、支払場所三島町信用金庫、振出地愛媛県字摩郡寒川町、宛名人河井政晴とし振出日付白地の儘なる約束手形一通(甲第一号証の本紙表面)を交付したことが認められる。そして叙上白地の約束手形たる甲第一号証本紙表面部分及び前示河井証人及び当審証人宮川勇の各証言により成立を認められる同号証本紙裏面部分並びに右河井、宮川証人の証言を綜合すれば、前記訴外河井は昭和二十八年十月十三日右白地約束手形の被裏書人を控訴会社とし同会社とし同会社に対し該手形を裏書したことを認められる。

ところで右訴外朝之進が当時被控訴会社を代表すべき取締役の一人であつたことは当事者間に争いがなく、しかも成立に争いのない甲第三号証によると、上叙代表取締役が共同して代表すべきことの定がないことを認められる。然るに被控訴会社は右手形は訴外朝之進が被控訴会社代表取締役篠原近一の名義を冒書しその印鑑を盗捺し振出したものであると抗弁するので審究するに、前示証人篠原朝之進の証言により右白地約束手形は訴外朝之進が振出人を前認定の如く表示し被控訴会社の取締役社長印を押印作成したことを認められるけれども同証人及び原審証人篠原康文の各証言中訴外朝之進の叙上所為を偽造であるとする部分は下記事実が認められるに照したやすく信用し難く他に偽造であることの認められる証拠はない。前示甲第一号証本紙表面部分及び前示証人篠原康文の証言により成立を認められる同号証被控訴会社の符箋並びに証人篠原朝之進、篠原康文の証言の各一部を綜合すると、被控訴会社においては、外部に対し会社のため取引その他の所為をする場合会社を代表すべき取締役の社長篠原近一自身のときに限らず常務取締役篠原康文等のときでも凡て一様に代表取締役社長篠原近一、又は代表取締役篠原近一と表示しその名下に被告会社取締役社長印を押捺するの方法によることが許されていたことを窺われるから他に特別事情の認められるものがないので上叙代表取締役篠原朝之進も被控訴会社のため所為する場合同様な方法によることが許されていたと做すを相当(むしろ当然)とする。してみれば、右白地約束手形は訴外朝之進が被告会社を代表する取締役としてしかも許されていた右認定の方法により振出したものと云うべきであるから偽造でない、従つて被控訴会社において振出人の責に任ずべきものである。

然るに前認定のように右約束手形は振出日未記入の儘振出されているものでありそれにつき特別事情の認められるものがないから所謂白地手形でありこれが所持人は振出人に対する関係においては手形上の権利を行使し得る間何時でもその補充をなし完全なる手形として行使し得られるものと解する(従つて、補充前の呈示では手形呈示の効を生じない)、ところで右甲第一号証本紙表面部分及び前示宮川証人の証言(第二回の)により成立を認められる新甲第一号証本紙表面部分並びに右証言と弁論の全趣旨を綜合すると、控訴会社は昭和三十年十月二十日所持する右白地約束手形(甲一号証表面)の振出日を昭和二十八年十月十日と補充し(新甲一号証表面)、本件口頭弁論にもそれを提出したことが認められるので被控訴人はそれ以後手形金支払遅滞の責に任ずるに至つたものと云うべきである。

そうすると、被控訴人は控訴人に対し右約束手形金十一万五千円及びそれに対する昭和三十年十月二十一日以降完済に至るまで商法所定年六分の割合による遅延損害金を支払うべきであるから控訴人の本訴請求は右限度において認容すべきもその余は失当と云うべきであり原判決は一部不当であるので変更するものとする。

よつて民事訴訟法第九十六条第八十九条に則り訴訟費用の負担を定め同法第百九十六条に則り仮執行の宣言をし主文のとおり判決する。

(裁判官 太田元 岩口守夫 浮田茂男)

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